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家具職人3代

ようやく国立美術学校「escuela de arte」に入学。

本科は5年間のコースで、私が入学を許可されたのは1年間の社会人コース。夕方から3時間の授業だ。日本で言えば、夜間学校って感じかな。

社会人コースらしく、集まった仲間たちはそれぞれ様々なことをやっている面々だった。

そこに東洋人の女の子(女の子という年齢ではないのだが・・・・)がひとり。私は小柄なのでかなり幼く見えるらしく、担当教官のラモンはかなり複雑な顔で、つたないスペイン語(本人は流暢にしゃべっているつもり)で自己紹介をしている私を見つめていた・・・。

正直まいったなぁ・・・という顔。

そのときは、「なんて失礼な!!」とひとりメラメラと怒っていたのだが、今となって考えると、スペイン語も話せるようになったとはいえ専門用語の一つも分からない小娘がいるのだ。教官の戸惑いも今となっては痛いほど分かる。良く面倒見てくれてと感謝の気持ちでいっぱい。

「とんかちもってこい!」「かんなでここのめんどりを」「のこぎりで蟻組みを」などなど、ラモンの言うことに全く付いていってない私は、道具部屋の前でいつも何を持って行ったらいいのか分からず、道具をにらみつつ周りの人が来るまで動けない日々。

ただスペインって国はすごく懐が深い。

人たちは温かくそして時間にも寛大だ。

わたしがいることでなかなか進まない授業なのだが、そんなことは全く気にせず、みんなで私の世話をやいてくれるし、何か一つ理解が出来たら、「すごいじゃないか!ひとりでできたのか!!!!」とハグハグ付きの大絶賛。

そんな風だから、私も自分の不出来を全く気にすることもなく、毎日充実の日々を過ごしていった。

そんな時間が重なっていくうちに、担当教官のラモンの視線にもあったかいものを感じ始めた。私のとりえは時間がルーズなあの国で、授業開始10分前には準備して待っていること。それと1日も休まず通っていたこと。

そんな日々が続くうちに、ラモンと世間話が出来るまでになった。

ラモンはアンダルシアの内陸にある村の出身で、お祖父さんもお父さんも家具職人という家で育ったという。家具職人3代。生まれながらにして家具職人になることが当たり前だったし、それに全く疑いもなく過ごしてきたこと・・・・、そんなことをぽつりぽつりと語ってくれるようになった。

ラモンから見ると、自分の国を離れ遠くスペインまで家具の学校に通うためにやってきた私の生き方などは、なかなか共感できなかっただろう。

私はそんな口下手でぶっきらぼうなラモンにすごく大切なことを教えてもらうことになる。

それはコース終了のために作品を一つ作ったときのこと。

私はその前にも小さな飾りだなを作っていた。日本にもって帰るため大きな作品は作れない。ちいさなお茶の道具を入れる飾り棚を作った。木で作ったその作品に私は全面ペイントを施した。

それはスペインに行って学んだインテリアデコレーションの技法の1つ「イミテーションペインティング」という技法。向こうは家の内装などを自分たちでペイントしてリメイクする。その技法に大理石風ペインティングや木にみせるペインティングなどがあった。イミテーションなんだけど、日本では見たことがなかったインテリアデコレーションにすごく惹かれていた時期だった。

せっかく木で作った作品をべたべたと塗りたくる私をラモンは評価してなかった。

最後の作品を作る材料を買いに行くことで悩んでいると、ラモンが自分の工房にある木を売ってくれることになった。それは高級家具に使われるヨーロッパ胡桃の木。ウォルナットだ。ものすごく滑らかで緻密な木肌が美しい。堅い木なので加工も大変だ。私はその木でテーブルを作る予定で、テーブル天板全面にペイントを施す予定だった。

私の設計図と計画を見てラモンが一言。「この木の美しさを最大限に生かしたらどうだ」

素材の美しさを生かす。

私は目が覚めた。スペインで見た技術にばかり気をとられていて、素材を見てなかった。ラモンが私に譲ってくれた木をみると、本当に美しい。素材の持つ美しさ。私はその時本当に大切なことを教えてもらった。

翌日ラモンに新しい設計図とペイントではない天板の加工を相談した。ラモンはぶっきらぼうに、でも熱心に私の作品を考えてくれ、とんでもない提案をしてきた!

続きはまた。

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